週刊東洋経済 2019年7月1日号(No.1997)

担当:粕谷建太(明治大学4年生)

表紙

『ファーウェイと別れられない英国』p.25

 中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の扱いを巡って英国が態度を決めかねている。日本を含む米国と同盟関係にある国は、米国からファーウェイを通信ネットワークの中核製品から排除するよう要請を受けている。英国も例外でなく、米国からファーウェイ製品を排除するよう強い圧力を受けていると推測できる。4月下旬、英国家安全保障会議はファーウェイを通信ネットワークから排除するものの、携帯電話の電波を通信するアンテナなど周辺製品には参入を認める方針だと報じられた。
実際、英国の通信事業者はこれまで通信インフラにファーウェイの機器を使っており、次世代通信規格「5G」サービスでも同社製品を使う計画である。
だが、ファーウェイ製品の利用を一部認めるという方針は、英国政府の最終決定ではないようだ。現地報道によると、英国の携帯電話各社は方針を明確にするよう政府に書簡を送ることを検討しているという。
英国政府が態度を決めかねているのは、米国からの圧力が高まっているからだろう。6月上旬に訪英したトランプ大統領は「英国とはファーウェイを含む全てで合意できる」と発言。ファーウェイ問題に関して何らかの進展があることを示唆したが、英国政府はコメントを控えている。
トランプ大統領が圧力を強めても、容易には受け入れられない事情もある。英国の携帯電話各社は既存ネットワークにファーウェイ製品を大量に導入しているほか、英ケンブリッジ大学などは様々な共同研究を手掛けているからだ。ある識者は「ファーウェイは英国経済の中枢に入りすぎていて、もはや排除できない」と指摘する。
次期首相の可能性が高いボリス・ジョンソン前外相はファーウェイに厳しい態度で臨むとみられている。英国と同社の蜜月は次期首相にかかっている。

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『敵か味方かBAT中国発デジタル革命の旗手』pp.28-47

 「BAT(バット)」とは中国IT大手3強の百度(バイドゥ)、アリババ集団、テンセント(騰訊控股)の頭文字を取った言葉であり、近年は世界各地で足場を築いている。現在、米国IT大手4強のGAFAはIT市場で覇権を握っているが、忍び寄るBATの存在に脅威を感じている。BATのビジネスモデルはGAFAに近いとされているが、その規模の大きさや技術革新と新たなサービスを生み出す力はBAT特有の強みである。
日本でも独自の魅力を持つ中国発のサービスが広く利用されている。SBGのグループ会社が昨秋から提供するスマホ決済「ペイペイ」はアリババの「アリペイ」と仕組みは同じ。また、10代を中心に人気を博している「TikTok」は北京字節跳動科技(バイトダンス)の日本法人が提供した動画アプリである。
日本の消費者は無意識に中国のサービスを受け入れ始めているが、個人情報を中国企業に預けている意識を持つ必要がある。17年に中国で施行された国家情報法は、中国の企業や個人は当局の諜報活動に協力しなければならないと定めている。中国企業が集めたデータが当局の手に渡り、監視など、国益に反するかたちで活用される恐れは否定できない。
BATはインフラが不十分の発展途上国に投資をする戦略をとっている。事業環境が整っていないなどの理由で、GAFAが本格投資を手控えてきた東南アジアやアフリカなどの空白地帯にBATの商機がある。BATが受け入れられている東南アジアやアフリカなどの中国の影響力が強い国と、GAFAが広く利用されている国々からなる米国陣営の分断を、米シンクタンク、情報技術イノベーション財団のロバート・アトキンソン代表は「『第一次冷戦』のような状況に近づきつつある」と分析する。

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『トライアルホールディングス カメラ1500台、小売り変える』pp.58-61

 九州発のディスカウントストア「トライアルホールディングス」は4月中旬、ITをフル活用した「メガセンタートライアル」を改装オープンした。セルフレジ機能を持つ「スマートレジカート」が200台、買い物客や棚の様子を録画する分析用カメラが1500台、個別の客の趣向に応じた広告を表示する「デジタルサイネージ」が210台、それぞれ配置されている。スマートレジカートの導入により店内のどこにいてもセルフで会計を終えることができる仕組みである。改装前には混雑時にレジで10分待つこともあったが並ぶ必要がなくなったと、近所の主婦からの評価は高い。また、AIも活用し、顧客の好みや必要になりそうな商品を把握して最適なクーポンを出している。結果的にクーポンの利用率は75%と高い比率になっている。ソフトウェアとハードウェアの両方を自社で開発したスマートレジカートは一台10万円程度に抑え、これまで15店舗で1500台を導入済みである。
当該ITを活用した場合、売り上げ増につながる手ごたえはあるという。レジカートを使って買い物をする顧客の1回の買い上げ金額は、使わない顧客よりも4割多いという結果が出ているからだ。来店頻度もレジカート利用者は平均月6.5回と、使わない顧客より1.4回多い。また、店舗の運営コストも削減できており、約940㎡のQuick大野城店は夜の0時以降、同規模店の半分の2人で運営している。
近年のネット通販の台頭により、従来の店舗の経営環境は厳しい。トライアルカンパニーは黒字経営といえども、19年3月期の売上高純利益率は1%と、収益性が高いとは言えない。その中で、強みがあるITを軸に他店との違いを打ち出す試みを行う。トライアルカンパニーの戦略に日本の大手小売りが注目している。

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『ファーウェイと別れられない英国』p.25

サマリー

 中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の扱いを巡って英国が態度を決めかねている。日本を含む米国と同盟関係にある国は、米国からファーウェイを通信ネットワークの中核製品から排除するよう要請を受けている。英国も例外でなく、米国からファーウェイ製品を排除するよう強い圧力を受けていると推測できる。4月下旬、英国家安全保障会議はファーウェイを通信ネットワークから排除するものの、携帯電話の電波を通信するアンテナなど周辺製品には参入を認める方針だと報じられた。
実際、英国の通信事業者はこれまで通信インフラにファーウェイの機器を使っており、次世代通信規格「5G」サービスでも同社製品を使う計画である。
だが、ファーウェイ製品の利用を一部認めるという方針は、英国政府の最終決定ではないようだ。現地報道によると、英国の携帯電話各社は方針を明確にするよう政府に書簡を送ることを検討しているという。
英国政府が態度を決めかねているのは、米国からの圧力が高まっているからだろう。6月上旬に訪英したトランプ大統領は「英国とはファーウェイを含む全てで合意できる」と発言。ファーウェイ問題に関して何らかの進展があることを示唆したが、英国政府はコメントを控えている。
トランプ大統領が圧力を強めても、容易には受け入れられない事情もある。英国の携帯電話各社は既存ネットワークにファーウェイ製品を大量に導入しているほか、英ケンブリッジ大学などは様々な共同研究を手掛けているからだ。ある識者は「ファーウェイは英国経済の中枢に入りすぎていて、もはや排除できない」と指摘する。
次期首相の可能性が高いボリス・ジョンソン前外相はファーウェイに厳しい態度で臨むとみられている。英国と同社の蜜月は次期首相にかかっている。

レビュー

 米国がファーウェイの締め出しを図ってきたのは、同社の通信機器に不正なプログラムが組み込まれ、スパイ活動に用いられるという安全保障上の理由によるものだ。中国には国家情報法という法律があり、当該法により諜報活動の協力という名目で、米国内の情報が中国に流出する可能性を否定できない。ましてや、ファーウェイのCEOである仁正非氏は人民解放軍の出身ということもあり、中国当局と近い距離にある同社の動向に米政府は神経をとがらせているだろう。米国の論理であれば、同盟国であるイギリスにもファーウェイの締め出しを要求したことに納得できる。
しかし、ファーウェイは2017年には全世界の通信基地局のシェアの4分の1以上を占めており、その事業規模の大きさ、技術力、価格において優位性を維持している。特に価格が低いこともあり、発展途上国の通信設備には同社の製品が広く利用されている。米国が排除を要求しても、うまく事が運ばないのである。
日本はファーウェイにどれほど依存しているのだろうか。NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの大手キャリア3社の中で同社の通信設備を唯一採用している会社はソフトバンクである。金額ベースでいうと、2017年におけるソフトバンクの通信設備の59.9%がファーウェイ製のものである。大手キャリア3社全体の金額ベースの同社の通信設備のシェアは13.2%になるが、それでも日本の通信の一部を、中国当局と繋がりがあるファーウェイが握っていることになる。
米国がファーウェイに対する態度を改めない限り、日本が米国との同盟関係を維持するには13.2%もあるファーウェイの通信設備シェアを下げる必要がある。G20の米中首脳会談を経て、トランプ大統領はファーウェイに米国企業との取引を認める方針を示したが、ファーウェイを巡って、先行き不透明であることに変わりはない。

『敵か味方かBAT中国発デジタル革命の旗手』pp.28-47

サマリー

 「BAT(バット)」とは中国IT大手3強の百度(バイドゥ)、アリババ集団、テンセント(騰訊控股)の頭文字を取った言葉であり、近年は世界各地で足場を築いている。現在、米国IT大手4強のGAFAはIT市場で覇権を握っているが、忍び寄るBATの存在に脅威を感じている。BATのビジネスモデルはGAFAに近いとされているが、その規模の大きさや技術革新と新たなサービスを生み出す力はBAT特有の強みである。
日本でも独自の魅力を持つ中国発のサービスが広く利用されている。SBGのグループ会社が昨秋から提供するスマホ決済「ペイペイ」はアリババの「アリペイ」と仕組みは同じ。また、10代を中心に人気を博している「TikTok」は北京字節跳動科技(バイトダンス)の日本法人が提供した動画アプリである。
日本の消費者は無意識に中国のサービスを受け入れ始めているが、個人情報を中国企業に預けている意識を持つ必要がある。17年に中国で施行された国家情報法は、中国の企業や個人は当局の諜報活動に協力しなければならないと定めている。中国企業が集めたデータが当局の手に渡り、監視など、国益に反するかたちで活用される恐れは否定できない。
BATはインフラが不十分の発展途上国に投資をする戦略をとっている。事業環境が整っていないなどの理由で、GAFAが本格投資を手控えてきた東南アジアやアフリカなどの空白地帯にBATの商機がある。BATが受け入れられている東南アジアやアフリカなどの中国の影響力が強い国と、GAFAが広く利用されている国々からなる米国陣営の分断を、米シンクタンク、情報技術イノベーション財団のロバート・アトキンソン代表は「『第一次冷戦』のような状況に近づきつつある」と分析する。


レビュー

 インターネットを利用する日本人の大半は日ごろからGAFAのサービスを活用しているが、GAFAを利用するにあたり、個人情報が厳格に守られている前提でGAFAに個人情報を預けている。16年に英コンサルティング会社、ケンブリッジ・アナリティカを通してフェイスブックの個人情報が流出し、大問題になったのはフェイスブックが利用者に約束した個人情報の秘密保持が守られなかったからである。それだけ、個人情報の秘匿はIT企業に求められている。
一方、BATは個人情報の秘匿を主張しているものの、17年に施行された国家情報法により、諜報活動の協力という名目で中国当局に個人情報を漏らす可能性を否定できない。日本企業が中国IT企業と共同でサービス開発をする際には、中国IT企業側が個人情報を握らないよう、個人情報の扱いに細心の注意を払うべきである。
私は中国のITサービスを利用していない認識でいたが、自身のスマートフォンに百度のアプリである「シメジ」をインストールしていた。本誌に「いつの間にかIT中華圏」というフレーズが見受けられたが、スマートフォンにインストールされている無数のアプリの開発元を確認している人は少ないだろう。ユーザー側にもアプリの開発元に個人情報を預けても問題ないか、適切な判断が求められる。
個人情報が国家に渡ることを避ける必要はあるが、IT企業が個人情報を握ることで生まれるイノベーションは存在する。アリババ集団が中国で展開する芝麻信用というサービスは決済履歴や雇用情報などの個人情報を入力することで、個人の信用度合の格付けを行う。信用度合が高ければ、ホテル宿泊時のデポジットが不要になるなどの様々な特典を受けられる。企業に個人情報を握らせることは個人情報流出の危険がある反面、個人情報を使った新たなサービスを誕生させる手助けになるのだ。

『トライアルホールディングス カメラ1500台、小売り変える』pp.58-61

サマリー

 九州発のディスカウントストア「トライアルホールディングス」は4月中旬、ITをフル活用した「メガセンタートライアル」を改装オープンした。セルフレジ機能を持つ「スマートレジカート」が200台、買い物客や棚の様子を録画する分析用カメラが1500台、個別の客の趣向に応じた広告を表示する「デジタルサイネージ」が210台、それぞれ配置されている。スマートレジカートの導入により店内のどこにいてもセルフで会計を終えることができる仕組みである。改装前には混雑時にレジで10分待つこともあったが並ぶ必要がなくなったと、近所の主婦からの評価は高い。また、AIも活用し、顧客の好みや必要になりそうな商品を把握して最適なクーポンを出している。結果的にクーポンの利用率は75%と高い比率になっている。ソフトウェアとハードウェアの両方を自社で開発したスマートレジカートは一台10万円程度に抑え、これまで15店舗で1500台を導入済みである。
当該ITを活用した場合、売り上げ増につながる手ごたえはあるという。レジカートを使って買い物をする顧客の1回の買い上げ金額は、使わない顧客よりも4割多いという結果が出ているからだ。来店頻度もレジカート利用者は平均月6.5回と、使わない顧客より1.4回多い。また、店舗の運営コストも削減できており、約940㎡のQuick大野城店は夜の0時以降、同規模店の半分の2人で運営している。
近年のネット通販の台頭により、従来の店舗の経営環境は厳しい。トライアルカンパニーは黒字経営といえども、19年3月期の売上高純利益率は1%と、収益性が高いとは言えない。その中で、強みがあるITを軸に他店との違いを打ち出す試みを行う。トライアルカンパニーの戦略に日本の大手小売りが注目している。

レビュー

 少子高齢化が進展し雇用人口が減る中で、人手不足を解消し、景気悪化を防ぐにはオートメーションが鍵となる。トライアルカンパニーの戦略は企業が生き残るために必要不可欠であり、小売業は早い時期からのオートメーションが求められている。
 ただ、人手不足の解消を目的に、コンビニやスーパーにセルフレジとレジカートが導入されつつあるが、利用者が極端に少ない印象を受ける。セルフレジの付近に従来のレジがあれば、面倒な作業を嫌う利用者が店員のいる従来のレジに集中するのは当然のことだ。小売業はセルフレジやレジカートを導入するだけなく、それらの利用率を上げる方策を練るべきだ。
ここで、私が考えるセルフレジの利用率を上げる方法を一つ紹介したい。それはレジ間の価格差を設けることだ。店員を減らすことで削減できる人件費を考えれば、セルフレジを利用することで利用者に一定の割引を設けても営業利益は減らないだろう。仮にセルフレジの利用者に1%の割引を設けるとする。店員一人あたりの時給を1000円と仮定すると、セルフレジにかかるその他費用を除いて考えると、一時間に10万円以内の会計であればセルフレジを導入した方が高い営業利益を期待できる。割引を設けることでセルフレジの利用者は確実に増えるだろう。更に、セルフレジは従来のレジより狭いスペースに多数配置できる。セルフレジを多数配置することで、利用者が長い列に並ぶストレスを感じなくなり、結果的に売り上げ向上を期待できる。
ネット通販の台頭により、小売業は従来のビジネスモデルからの変革を迫られている。セルフレジやレジカートは手段の一つであり、全国の小売業はこれらの導入を検討する必要があると考える。