Common’s Sense
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法律一歩二歩 ~刑事と民事、違いと共通点〜
川尻 恵理子
法律家には社会の法的なハードルを決める役割があると前回学びましたが、その法にはいくつか種類があります。川尻先生も弁護士としては主に民事を、裁判官時代には主に民事、刑事及び家事をご担当されています。今回は大まかに刑事と民事についてお聞きしました。
(取材・文/小川奈津実)
― 刑事と民事の違いはありますか。例えば大変さなど。
両者は全く違う世界ですからね。違いはどの視点から見るかによりますが、どちらも依頼人の人生に関わるという意味では大変です(笑)。しかし、強いて言えば刑事の方がより人生に直接的で大きな影響を及ぼすでしょう。有罪か無罪か、有罪なら執行猶予はつくのか、実刑なら何年間服役するのかという状況ですから。そのため、最も崖っぷちの状態の人たちをどのようにして救っていくかが問題になります。無辜の人が処罰されるわけにはいきません。また、仮に有罪だとしても、大半の人たちは犯罪者になりたくてなったわけではありません。そうした人たちと向き合って、どのようにこの人の人生を今より良い状態へ共に歩んで導いていくか、言わばそれが刑事なのです。
一方、民事の多くはお金に換算されるトラブルです。ただ、弁護士や裁判所のところまで来る人たちのトラブルは、既に自分たちだけでは解決できない状態にあり、対立や金額が大きいことが多くて、やはり「簡単」というわけにはいきません。この大変な争いをどうやって解決するのか、知恵を絞って解決方法を考える、それが民事と言えるでしょう。
― ドラマで観るような個人が大企業を相手に訴訟を起こすというケースも実際にありますか。
ありますよ。一般的にそうした場合は手持ちの資料の量が違うので、苦労することが多いです。また、例えば医療事件の場合は、こちらに協力して医療記録を読み解いてくれる医師を探さなければなりません。けれど、相手が大きいからと言って、それだけであきらめる法律家はきっといないでしょう。
― 医療事件の話が出ましたが、裁判も多くの人々が関わるものなのですね。
そうです。医療や建築など専門的知識が必要になる裁判は、専門家と二人三脚で行う必要があります。また刑事でも、社会福祉士や精神保健福祉士と連携することがあります。この点は刑事と民事に違いはありません。私たちは、様々な専門家と協力して事件に対応しているのです。
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刑事と民事――全く別の世界ではありますが、その一方、依頼人の人生がより良くなるよう助けるという法曹の根底を始め、実は大枠では共通点も多いのですね。