Common’s Sense
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法律一歩二歩 ~社会のお医者さん、それが法律家~
川尻 恵理子
前回は、法律とはみんなが社会で暮らすためのルールである、という基本事項を学びました。
今回も法の世界に関して引き続き川尻先生からお教えしていただきます。
(取材・文/小川奈津実)
― 法律家の仕事というと裁判のイメージが強いのですが、実際にはどういったものなのでしょうか。
大きな視点からみると、法律家の仕事は、この国の司法を形作ることです。それにより、社会の在り方も変化していきます。
私たちは、一人一人が法律を解釈して判断を下します。しかし、法律には解釈の幅があり、必ずしも一義的ではありません。
現実は千差万別ですから、この様々な事象にあわせて、その条文をどのように解釈すれば妥当な結論にたどりつけるのか、いくつかの考え方があるのです。
また、前提となる事実自体も、人によって見え方が異なります。極端に言えば、真実は人の数ほどあるのです。
よく、法的三段論法と言って、事実に法律を当てはめれば結論が出ると考えられていますが、実際には、事実は人により違い、法律も解釈により違うのですから、答えが簡単に出てくるわけではありません。そのため、常識に沿った結論、だれもが納得する妥当な結論は何かということを、常に意識しておくことが大切です。
そして、個々の法律家がそれぞれのケースに下していく判断の積み重ねによって、社会の法的なハードル=規範が出来上がっていきます。
例えば不法行為が成立するかどうかというのは、違法かどうかを決めるハードルがあるからこそ、決まるのです。
違法のハードルを超えれば法的なペナルティが科せられますが、ハードルの下であれば、失礼な行為や不適切な行為とは言えても、法的なペナルティまでは科せられない、
という具合です。
このハードルを高くすると個人の自由の幅は広がる代わりに、被害に遭っても違法とは見なされず、救済されない可能性が高くなります。逆に低くすると個人の自由の幅は狭まり、簡単に違法と評価されて責任を負わなければならなくなる代わりに、被害に遭った際の救済の可能性は高くなります。
後者が行き過ぎれば、誰もが余計なことをして自分の責任にされないよう自己保身に走り、ギスギスした生きづらい社会になってしまうのです。
我々法曹の一つ一つの判断が、積み重なって社会の規範を形作り、これにより社会の在り方そのものが変化していきます。だからこそ法律家は―特に裁判官は―社会の番人あるいはお医者さんのようなもので、常識に沿った法的判断を心掛け、このハードルを適正な場所に置いていくのです。
一つ一つの判断が、未来の社会の形を決めていくと言えるでしょう。
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裁判等で具体的にイメージされる法曹の仕事、その本質はルールの基準を決めるという、より良い社会を築くには不可欠のものなのですね。